瀬戸内の名山に登る。 ~香川県「竜王山」~

フィジカルにアタックしても、メンタルにアタックしても、山は人間を大いに内省的にしてくれる。
そして、秀麗な姿で堂々とそびえる山々を前にして痛感するのだ。
山がわれわれにとって生活の一部であり、われわれの肉体と精神が山に育てられてきたということを。
登るもよし。歩くもよし。見るもよし。思うもよし。そこに山が、あるゆえに―。
アラフィフ編集者が瀬戸内各県の最高峰に単独アタックし、身近すぎて見過ごしがちなふるさとの山の魅力を全身全霊で体感するこの企画。1st アタックは、香川県の南部、徳島県との県境にそびえる讃岐山脈の中で、最も高い標高を誇る「竜王山」。
いつものように暮らす香川の田園風景を、この山の上から見たらどう映るのか。確かめてみようと登ってみた。
低山の多い香川で異彩を放つ、讃岐山脈核心部の双耳峰。

春の陽気に誘われて香川県最高峰へ出発。山間に広がる牧歌的風景に心癒やされる。
全国で一番面積が狭く、県土のほとんどを平野部が占める香川県の山といえば、讃岐平野のあちらこちらにポコポコと盛り上がる、まるで昔話の絵本などに登場するような「おむすび型」の山がイメージとして浮かぶ。
そのほとんどが、登山というよりは里山歩きを気軽に楽しむような低山ばかりである。
標高1,000mを超える山は県南部、徳島県との県境に横たわる讃岐山脈にある竜王山と大川山の2座のみで、県内最高峰となるのが竜王山だ。
桜が満開の時期を迎えた2021年3月下旬、スタート地点となる高松市塩江町の奥の湯ふれあいの里へ向かう。
県道を少し南に下ったところにある登山口の標識から大手前高校塩江向学寮の建物を横目に山道に入る。
道は舗装されていて歩きやすく、春の陽気が気持ちいい。
犬を連れた地元の老紳士と出会い挨拶すると「竜王山行くんな。気を付けてな」と声をかけてくれた。




急坂の連続に息も絶え絶え。「竜王」の名は、伊達じゃない。
陽光を受けてキラキラと輝く茶畑の緑を愛でながら農道を歩いていくと、やがて竜王山キャンプ場にたどり着いた。
平日なので当然ながら人影はなく静かだ。管理棟を通り過ぎると「竜王山へ2,000m」の看板が現れ、ここから本格的な登山道がスタート。
道の脇には1合目ごとに標識があり、2合目、3合目と軽快に通り過ぎていく。

竜王山キャンプ場までは地元の生活道路を歩く。途中いくつかの集落を通過するが空家も目立つ。
所々に登山道の標識が立てられているのだが、進行方向が分かりにくい箇所もあるので注意。
著者は民家の敷地へと続く道に迷い込んでしまい、軌道修正を余儀なくされた。茶畑の横の荒れたあぜ道から強引に戻り、背丈ほどの高さのある草をかき分けて登るはめに。

このままゆるやかに高度が上がっていくものと思いきや、3合目を過ぎたあたりから傾斜が増し始め、徐々に足取りも重くなってきた。額や背中から汗が噴き出す。
4合目を過ぎるといきなり目の前の視界が明るく開けた。
登山道は、集約化試験団地という木々が伐採された広大な植林区域の中を通過しているらしい。
低コストでの造林や獣害対策などの試験をこのエリアで集約化して行っているという。
山頂の方まで見渡せる爽快な展望だ。道沿いに点在する切株に巻かれたピンクのテープを目印に、一歩一歩踏ん張りながら登っていく。
息が上がり空を見上げる回数が増えた。
一旦立ち止まり深呼吸してから後ろを振り返ると、はるか下の方に、犬を連れた老紳士と挨拶を交わした集落や茶畑がずいぶんと小さく見えた。



頂上へと続く長い長い階段を、一歩一歩踏みしめて。
8合目付近まで延々と続く急登ゾーンをようやく越えて松尾分岐に。標識に従って支尾根を進んでいくと、徳島県との県境に沿って延びる主稜線に出た。阿讃縦走路という名があるらしい。
ここまで来れば頂上まであと少し。
竜王山には阿波竜王と讃岐竜王の2つのピークがあるが、まずはもっとも標高が高い阿波竜王を目指す。
2つの竜王への分岐点からいきなり丸太の急な階段を下りて西へ。尾根歩きはなかなか爽快だ。
周囲の展望はあまり開けておらず、ここまでの疲れもあってかなんとなくぼうっとしてしまう。
いくつかのコブを越え、古びた小さな地蔵が登山客の往来を見守る浅木原分岐を過ぎると最後の階段。
一気に登りきると、展望台のある阿波竜王にようやくたどり着いた。





登頂成功!阿波と讃岐の「竜王」にコンニチハ。
展望台から北側を眺める。
あいにく大量に飛来してきた黄砂の影響で、美しい讃岐の田園風景を上から拝むことはできなかった。
南の徳島県側もガスがかかっていたことや、周辺の木々が伸び放題だったため、こちらも見晴らしは良くなかった。たったひとりの山頂でのランチタイムは、ゆったりと流れていくぜいたくな時間。
ほのぼのとしていてのどかだ。
腹をすっかり満たし、今度は讃岐竜王を目指して来た道を引き返す。



ピークまで果てしなく続く最後の急階段にはかなり骨が折れた。
やっとの思いでたどり着いた讃岐竜王だったが、周囲を植林と雑木に囲まれ、景色はまったく見えない。
ベンチと看板があるのみで、どこか寂しい雰囲気に包まれていた。
これといって何もないので早々と下山の途へ。
県境の尾根道を延々と東に進み、鷹山公園、相栗峠を経て、出発した地点へと戻ってきた。
いつまでたっても終わらない下山の急坂と階段の連続にもうヘトヘトで、地べたにヘナヘナと座りこんだ。
頂上付近はもはや見えないのだが、「讃岐のダブル・ドラゴン・キング」に向かってなんとなく、ペコリと頭を下げてみた。





竜王山登頂の足あと。
登頂日:2021/3/30 登山ルート:奥の湯ふれあいの里 → 竜王山キャンプ場 → 松尾分岐 → 阿波竜王 → 讃岐竜王 → 鷹山公園 → 相栗峠 → 奥の湯ふれあいの里 活動時間:約5時間40分(休憩など含む)
10:00 START →

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14:54 →

14:55 →

15:09 →

15:44 GOAL


香川県南部に連なる讃岐山脈の最高峰である竜王山。2つの峰があり、標高が最も高い西側の峰は阿波竜王、そこから北東へ約600mのところにある1,058mのピークが讃岐竜王と呼ばれている。今回登ったのは、高松市塩江町にある奥の湯ふれあいの里をスタートし、阿波竜王、讃岐竜王を経て相栗峠へと下山する周回コース。登山道はこのほかにもいくつかあり、香川県側からは南の三頭山方面から山頂へ至るルートのほか、まんのう町川奥からも登ることができる。